『ショートフィルム再考』について
2004年より当連盟ホームページで連載を続けてきた「ショートフィルム再考—映画館の外の映像メディア史から」がこのほどまとめられ、岩波書店より出版されました。
この本は、興業用長編映画中心の映画史では付録的にしか扱われてこなかった短編映像の流れとそれを担ってきた製作者の歩みを通じて、戦前・戦後の映像文化の一断面を描く決定版ともいうべきものです。
著者からのメッセージ
映画史には三種類ある、と聞いたことがある。先ず映画というシステムの技術史、次に作家作品を中心とする芸術史、そして映画というメディアの役割を論ずる社会史である。本書は第三の類型に属するものと思うが、製作者(プロダクションとプロデューサー)に焦点を当てている点では、経営の社会史と言えるかもしれない。調べ書くことを通じて、すでに故人となられた方々を含めて多くの先達の方々から、また現役の万々からも、さまざまな貴重なヒントをいただくことができた。鋭い問いかけもあった。私たちは、カメラで、CGで何を見ているのか。巧みなモンタージュは、映像への観客の信頼を裏切ることはないのか。そして、映像の作り手は、見る側に立っているのか。立つことができるのか。
通史は退屈という評を免れるとは思えないが、これから映像の世界へと進もうとする方や研究をされる方に、地図代わりにでも役立てていただければと願っている。
(吉原順平)
著者紹介
吉原 順平(よしはら じゅんぺい)
1932年、東京に生まれる。1957年、早稲田大学第一文学部を卒業し、株式会社岩波映画製作所に入社。「岩波写真文庫」の編集、記録映画・産業映画・テレビ番組の企画・脚本を担当。企画室長、取締役を歴任し、1975年退社。株式会社イメージシステムを設立し、博覧会や展示施設の計画に従事。現在、フリーの映像プランナー。「映文連アワード」(映像文化製作者連盟主催)の審査委員などを務めている。2011年「映画の日」特別功労章受章。
著書に「生きものばんざい」シリーズの『サケふるさとの川へ』『モンシロチョウのなぞ』『盲導犬ものがたり』(1976~80年,金の星社)、『日本の産業技術映画(日本の技術9)』(1989年,第一法規出版)など。
目次
はじめに――文化産業としての短編映像
第一章 教育映画・文化映画・ドキュメンタリー映画――十五年戦争の終わりまで
1 意図された「短編」の始まり――教育映画市場の形成
2 科学の普及と視覚メディアの役割――出版と映画
3 戦時短編の思想――映画法と文化映画ブームの帰結
4 「ドキュメンタリー映画」のパラドックス
5 国策「文化映画」の終焉
第二章 占領下の民主化と短編映像――文化映画から新しい教育映画へ
1 占領政策と映画――統制撤廃と新しい規制
2 戦後短編映画業界の形成――経験者たちと新しいプレーヤーの出会い
3 戦後労働運動と短編映画業界
第三章 「教育映画」からの再出発――製作者の期待・教育界の見かた
1 「教育映画」という曖昧な概念
2 学校教育における「教育映画」の生産・供給システムの形成
3 社会教育分野の「教育映画」
4 産業としての「教育映画」――業界・行政・政治
第四章 新分野「産業映画」の盛衰――発注者と製作者の曖昧な関係
1 委託製作の戦後初期――「PR映画」の登場
2 「PR映画」の発展と大衆化の試み
3 多様化した「産業映画」とその評価――選奨制度の展開
4 「産業映画」時代以後の委託製作――映像メディアの多様化のなかで
5 「産業映画」時代が提起した課題(1)――東京シネマ・岡田桑三における委託作品と製作者の権利
6 「産業映画」時代が提起した課題(2)――桜映画社・村山英治における委託作品と経営の持続性
第五章 科学・民主主義・映像メディア――見えなくなる先端と日常の視線
1 戦後科学映画の形成
2 高度成長の一九五〇~六〇年代――科学映画が映す時代の動き(1)
3 疑問と不安の一九七〇~八〇年代――科学映画が映す時代の動き(2)
4 体制化とメディア革命の九〇年代から――科学映画が映す時代の動き(3)
5 日常の視線で先端を見る――科学映像製作者の課題
第六章 「短編」を越えて――製作者たちの模索する未来
1 短編委託製作の難しさ――岩波映画・吉野馨治の志と現実
2 運動から生まれる可能性を求めて――青林舎・高木隆太郎の闘い
3 インデペンデント長編ドキュメンタリーの時代へ――映画祭が拓く新しい市場
4 新世代プロデューサーたちが探る未来
5 共同記憶としての映像記録――大震災とアーカイブと
あとがき――経緯・謝辞・期待
人名索引
A5版・上製カバー544頁
定価(本体5,800円+税)